つい最近、ボーナスをはたき借金までして買った最新のデジ一眼、EOS1Dsマーク3をぶら下げて、オレはとある高級DPE屋の前に立っている。
昨日、彼女を写した海辺のスナップ写真をプリントしてやろうと意気込んでやって来たのだ。なにしろこのDPE屋ときたらお客を選別しているという噂だ。高級デジ一眼のオーナーかコンパクトデジカメオーナーかによって対応がまるっきり違うという。カメラを買ったのはこれが初めてだが、最近の機械は初期設定のままで十分まっとうに使うことができるという。モニターで確認してもいい写真が撮れている自信があるのだ。まだほとんどの人が買う事ができないこのカメラを手にした以上、最高級の待遇でプリントしてもらわないと、デート代でさえも割り勘で過ごさせてきた彼女に、そしてこの2200万画素の超高級カメラにも示しがつかないってもんだ。意を決して一歩店内に踏み込む。すぐに店主らしき初老の男が出てきた。
「おぉ、1Dsマーク3のオーナーさまでいらっしゃいますね。ささ、こちらへ」
こちらが何も言わないのに奥の応接室らしき部屋に通されてしまった。他には、さもプロでございますといったファッションに身を包んだ40代くらいの男が1人。オレのカメラをちらちらと見ている視線を痛いほど感じる。あいにくカメラバッグを持っていないのでぶっきらぼうにテーブルの上に1Dsマーク3を投げ出してやった。
店主が早速注文にとりかかる。同時にミニスカートのお姉ちゃんがジュースを運んできてくれた。「プリントでございますね。当方、最新のadobeRGBに対応した、たいへん高精細かつ鮮やかな色彩でプリントを提供する高級プリンターをご用意しております。デジ一眼のオーナー様にはたいへん喜ばれているシステムでサービスさせていただきます。さてお客様のお撮りになった写真は、ほほぅ海辺のスナップ写真ですね。」オレと一緒にモニターをのぞき込み写真を批評し始めた。「この海の色ときたらグリーンからブルーにかけてのこの色彩、まことに美しゅうございます。また、モデルのお嬢さんのお美しいこと。このワンピースのパステルカラー等は当方のプリンターで実物以上に、いえいえ、実物そっくりに仕上げることが可能でございます。データはJPEGでございますか。はぁ、さようですか。いえ、結構でございますよ。」な・なんだJPEGで悪いか。「こちらにお持ち込みになるお客様はほとんどRAWで撮影なされてご自分でレタッチをお気の済むままなされた後、持ち込まれる方が多ございますので。通常100メガを超えたサイズが多いのですが当方はどんなにデータが重かろうと問題ありません。データが大きいほど良い結果になりますので喜んでいる次第でございます。今回は撮りっぱなしの写真でございますね。それもまた面白うございます。お客様のなかには、うちのプリンターで出せるadobe色がない等という理由でわざわざ風景をタヒチやインドネシアなどに撮影に行かれて、その写真を初詣でや七五三の写真の背景に合成までして使われていらっしゃる方もおられますので。はい、そのままCFカードをお預かりいたします。でき上がるまでそこの写真集でもご覧になっておくつろぎ下さいませ。あっ料金でございますか?普通のプリントとお比べになられますと多少お高くなっておりますが、けっしてご期待を裏切るようなプリントにはならない自信がございます。」とここまで事態が進んだ後、オレは肝心なことを言い忘れていることに気付いた。「あの、その写真はsRGBで写したJPEGなんだけども・・・」隣に座っていたプロ野郎はオレの言葉を聞いた途端ズッコケてあやうくカメラをテーブルから落としかけたし、店主に至ってはへなへなと腰を落とし、わななくような声でこう答えた。「こ・こちらのミスでございます。てっきりデジ一眼のオーナー様でいらっしゃったのでこちらの高級プリンター顧客室のほうへお通しした次第でして・・。sRGBで写された写真でしたら、あちらのコンパクトデジ待合室のほうへご移動下さいませ。」てなわけで、オレは女子中生が行列をなしている喧噪の中へと移動させられ、立ったまま数十分間も待たされたのであった。